研究成果
コモンマーモセットの腸管オルガノイド”ミニ腸”の樹立に成功
Establishment of Intestinal Organoids from Common Marmosets
25/3/5

マーモセット大腸オルガノイド(緑:上皮細胞、赤:増殖性の細胞)一部の細胞は増殖をやめて成熟した細胞に変化していることが分かる。
背景
近年、「ミニ腸」ともたとえられる腸管オルガノイドの研究が、動物の栄養吸収の謎を解き明かす鍵として注目されています。我々ヒトをふくむ動物は、食べ物を飲み込んだあとに小腸・大腸で栄養を吸収します。腸管オルガノイド培養系は、この栄養吸収のときに働く細胞(腸管上皮細胞)を、その働きを保ったまま、腸の外にある実験室でも維持・培養することを可能にする技術です。つまり、実験室でミニチュアの腸を作成することで、栄養素がどのように吸収されて体の中に取り込まれていくのかを細かく研究することができるのです。
研究成果
当センターD1の石村 有沙 さんは、南米原産の小さなサルであるコモンマーモセットから大腸オルガノイドを樹立することに、世界で初めて成功しました。この大腸オルガノイドは長期間生体外で維持することが可能で、コモンマーモセットの腸で見られる様々な種類の腸管上皮細胞に分化できることが確認されました。
この成果は、2025年2月12日に国際学術誌「Organoids」に掲載されました。
今後の期待
コモンマーモセットは、野生下において自身がもつ消化酵素では分解できない食物繊維を含む樹液を主食としています(一日の採食時間の半分以上を樹液摂取に費やすこともあります)。食物繊維は腸内細菌に分解された後、大腸の上皮細胞からエネルギー源として吸収されます。樹液を食べるコモンマーモセットにとって、この機構は一層重要です。
本研究で樹立されたオルガノイドのさらなる解析により、コモンマーモセットの大腸が特殊な食習慣にどのように適応したのかを探ることができます。今後、飼育下では下痢などの腸疾患を発症しがちなコモンマーモセットの飼育・管理の改善に役立つ知見が得られることが期待されます。
Organoids 2025, 4(1), 3